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仙台高等裁判所 昭和27年(ネ)433号 判決

原判決中「原告その余の請求を棄却する」との部分を除きその余を次のとおり変更する。

控訴人宮城県知事が宮城県本吉郡唐桑村農地委員会の昭和二十五年十月七日に定めた売渡計画に基いて昭和二十六年三月二日参加人柏芳兵衛に売渡通知書を交付してした同村大字小原木字館百七十七番の一畑一反六歩についての売渡処分及び右農地委員会が昭和二十五年十月七日同所百七十七番の二畑六畝十歩及び同所百七十八番畑二十歩につき売渡の相手方を参加人柏秋美として定めた売渡計画はいずれも無効であることを確認する。

控訴人宮城県知事の昭和二十六年一月二十九日にした被控訴人に対する売渡処分を取消す旨の処分の取消を求める趣旨の被控訴人の訴を却下する。

被控訴人の附帯控訴を棄却する。

訴訟費用中附帯控訴に関する部分は被控訴人の負担とし、その余は第一、二審を通じすべて控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は「原判決中被控訴人敗訴の部分を除きその余を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人の附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求めた。被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、なお附帯控訴の趣旨として控訴人宮城県知事が宮城県本吉郡唐桑村大字小原木字館百七十七番畑一反六畝十六歩(現在同所百七十七番の一畑一反六歩及び百七十七番の二畑六畝十歩)及び同所百七十八番畑二十歩につき昭和二十六年一月二十九日した被控訴人に対する売渡処分の取消処分は無効であることを確認するとの判決を求め、なお原判決中参加人柏秋美を売渡の相手方としてなされた売渡処分の無効確認とあるのは同人を相手方として定められた売渡計画の無効確認を求める趣旨であると釈明した。

当事者双方の事実上の主張は控訴代理人において、

一、本件農地の買収計画をたてたのは昭和二十三年一月十七日で買収の時期は同年二月二日である。原判決に買収計画をたてたのは一月七日とあるのは誤りである。

二、参加人柏芳兵衛は昭和十六年中老齢となつた被控訴人より賃借権の譲渡を受けたものであつて地主もこれを暗黙裡に承認し、爾来本件農地の賃借人となつたのである。右芳兵衛は被控訴人の二男であつて当時戸主であつた。

三、参加人柏秋美から本件農地につき買受の申込がなかつたことは争わないが、本件農地の一部を同人に売渡したのは同人も事実上耕作に従事していたので、その事情を参酌し公平を期するためであつた。

と述べ、被控訴代理人において、

一、本件農地の被控訴人に対する売渡処分は正当且適法であつて何等の瑕疵がないのである。然るに控訴人は参加人柏芳兵衛の策動に躍らされ、被控訴人に和解を勧告したが容れられなかつたので唐桑村農地委員会の意向を無視して本件売渡計画を樹立せしめた上、被控訴人に対する本件農地売渡処分を何等の理由をも開示せずして取消したものであるから、該処分は法律上当然無効である。仮に当然無効でないとしても違法な処分として取消さるべきであるから、右処分が当然無効でないとすればその取消を求めるものである。

二、原判決摘示の被控訴人主張中参加人柏秋美に対する売渡処分が無効であるというのは、同人に対してはいまだ売渡通知書の交付がないのであるから、同人を相手方として樹てられた売渡計画が無効であることの確認を求める趣旨である、即ち柏秋美は本件農地について買受の申込をしないのに唐桑村農地委員会は同人を相手方として売渡計画を樹てたのであるから、右計画は当然無効である。

三、被控訴人が本件農地を賃借したのは昭和四年中で夫春治の死亡後である。

四、控訴人主張の右事実中一、の事実は争わないが、二、の賃借権譲渡の事実を否認する。

と、述べた外、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

(証拠省略)

三、理  由

宮城県本吉郡唐桑村大字小原木字館百七十七番畑一反六畝十六歩(現在同所百七十七番の一畑一反六歩及び同所百七十七番の二畑六畝十歩)と同所百七十八番畑二十歩(以下単に本件農地と称する)はもと訴外洪竜寺の所有であつたところ、控訴人が昭和二十三年一月十七日訴外唐桑村農地委員会の定めた買収計画(買収の時期を同年二月二日としたもの)に基いてこれを買収したこと同年五月十九日右委員会の樹てた売渡計画即ち賃借人を被控訴人と認め同人を売渡の相手方とした売渡計画に基き控訴人が同年六月一日附売渡通知書を被控訴人に交付して売渡処分をしたこと、然るに前示委員会は更にその後昭和二十五年十月七日本件農地の内百七十七番の一部(同番の一畑一反六歩)の売渡相手方を参加人柏芳兵衛、同番の一部(同番の二畑六畝十歩)及び百七十八番の売渡相手方を参加人柏秋美とする売渡計画を定めて、公告したこと及び控訴人において被控訴人に対し前示被控訴人に対する売渡処分を取消す旨通知したことは各当事者間に争がなく、成立に争のない甲第三号証(同号証の日附が昭和二十五年一月二十九日となつているのは昭和二十六年一月二十九日の誤記であることは原審証人男虎良雄の証言によつて明かである)同第四号証、原審証人柴森英行、男虎良雄の各証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、控訴人が被控訴人に対し右売渡処分を取消す旨通知したのは昭和二十六年一月二十九日であることが認められる。被控訴人は右売渡処分取消の時期は昭和二十五年十月七日の売渡計画樹立直前であると主張するけれども、かかる事実を認めて右の認定を動かすに足る証拠はない。

よつて先ず右売渡処分の取消は無効であるかどうかについて案ずるに、前記甲第四号証によると控訴人が被控訴人に対する売渡処分を取消した理由は、唐桑村農地委員会の定めた売渡計画は売渡の相手方を被控訴人とした点において適正でなくこの計画に瑕疵があるものとして宮城県農地委員会において右売渡計画の承認を取消したからというにあることが認められる。しかし本件農地の当初の賃借人が被控訴人であつたことは控訴人も認めるところであつて、控訴人は昭和十六年以降の賃借人は参加人柏芳兵衛であると主張するのであるが、原審証人永井寛隆(第一回)の証言により成立を認める甲第十一号証、成立に争のない甲第十五号証原審証人加藤栄五郎、梶原亀蔵、男虎良雄、熊谷和、熊谷栄治、千葉隆七、永井寛隆(第一、二回)当審証人永井親雄の各証言、原審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、本件農地は昭和三年十一月二十七日被控訴人の夫春治の死亡した後間もない昭和四年中被控訴人が直接地主の洪竜寺から賃借し爾来耕作を継続してきたのであつて、本件農地の買収計画樹立当時においても依然として被控訴人が係争農地につき耕作の業務を営む小作農であつたことが認められる、右認定に反する原審証人小野弘一の証言は前示永井寛隆、同親雄の証言に照し採用し難く、乙第一、二号証の各一、二には昭和二十一年十月二十三日洪竜寺の住職永井寛隆が爾後本件農地を訴外柏ちやに賃貸することを承諾したような記載はあるが、右書面中の永井寛隆作成名義の部分はその成立を認めるに足る確証がないのみならず、前示永井寛隆、同親雄の証言を綜合すると、右永井親雄は同日養父寛隆を代理して小原木巡査駐在所に出頭した際も本件土地の賃借人を柏ちやに変更することを承諾したことなく、また斯かる書類に捺印したことがないことは勿論、右書類中永井寛隆名下の印影は従来同証人の見たこともないものであること及び被控訴人との賃貸借契約を解約したことのないことが認められるのであるから、右の書証を以て控訴人の主張事実を認める証拠とすることはできない。しからば本件農地買収計画樹立当時は勿論、この計画に定められた買収の時期昭和二十三年二月二日当時においても本件農地の賃借人は被控訴人であるから、先に被控訴人を相手方としてなされた本件農地の売渡計画は売渡の相手方を被控訴人とした点において何等の瑕疵はなく、これに基く売渡処分も正当であつて毫も違法ではないのにかかわらず、売渡の相手方を誤つたことを原因としてなされた本件売渡処分の取消こそ却つて違法であるといわねばならない。しかし右のように売渡の相手方たるべき者を誤認したことによる違法な取消処分は取消訴訟の対象となるは格別それが当然無効であるとはいえないものと解するのが相当である。従つて右取消処分の無効確認を求める被控訴人の請求は理由がない。また右のような売渡処分を取消した処分も自作農創設特別措置法による行政庁の処分に外ならないものであるからして、右取消処分の取消又は変更を求める訴についても同法第四十七条の二の規定が適用せらるべきものといわなければならない。然るに被控訴人が本件の訴を提起したのは昭和二十六年六月二十七日であることは記録上明かであつて自作農創設特別措置法第四十七条の二所定の出訴期間経過後に属するから右処分の取消を求める訴としては不適法たるを免れない。次に控訴人が参加人柏芳兵衛に対してした売渡処分及び参加人柏秋美を相手方として定められた売渡計画の効力について審究する。

前掲第二次の売渡計画に基いて控訴人が昭和二十六年三月二日参加人柏芳兵衛に対し本件農地中同参加人に売渡すべきものと計画された分につき売渡通知書を交付して売渡処分をしたこと、しかし参加人柏秋美に対しては同参加人に売渡すべきものとして計画された分につきいまだ売渡通知書が交付されず、しかも同参加人は本件農地につき買受の申込をしたこともないこと、以上の事実は当事者間に争がない。

ところで本件農地は被控訴人を売渡の相手方とした第一次の売渡計画に基く前掲売渡処分により被控訴人に売渡されたのであるから、成立に争のない甲第一号証によつて明かな売渡の時期即ち昭和二十三年二月二日に被控訴人の所有に帰したことは自作農創設特別措置法第二十一条第一項の規定に徴し明かである。されば右の売渡処分をそのままにしておいて、その後二年数箇月も経過した昭和二十五年十月になつて同一の農地につき更に前記のような第二次の売渡計画をたてることは本来許さるべき事柄ではなくかかる売渡計画は取消をまつまでもなく法律上当然無効と解せざるを得ない。けだし売渡計画を定め得る農地は政府が自作農創設特別措置法第三条によつて買収した農地その他政府の所有に属する農地であつて、(自作農創設特別措置法第十六条)既に同法に基いて他え売渡した農地につき重ねて売渡計画をたてるが如きことは到底許容さるべきではないことが明白であるのみならず、もしかかる売渡計画といえども当然無効ではなく単に取消し得るに過ぎないとすれば、既に売渡を受けた被控訴人としてはよもやその農地につき更に新な売渡計画がたてられようとはつゆ予想し得ずしてその売渡計画に対する不服申立の機会を失うことも容易に推測し得られるからである。尤も本件においては前記認定のように第二次売渡計画樹立後の昭和二十六年一月二十九日になつて、被控訴人に対しさきの売渡処分を取消す旨通告されたのであるがこの取消処分の結果取消の効力は被控訴人に対する売渡処分の時に遡り初めからこの売渡処分がなかつたと同じ状態に帰するにしても参加人等を売渡の相手方とする右第二次売渡計画は被控訴人に対する売渡処分後その取消前、即ち本件農地が売渡を受けた被控訴人の所有に属した当時に樹てられた計画であることに変りはないのであるから、たとい後日になつて前の売渡処分が取消されたとしても当然無効たるべき右第二次売渡計画が有効化するものとはいえない。要するに参加人両名を各売渡の相手方として定められた前記第二次の売渡計画は法律上無効であつて、この計画に基いて控訴人が参加人柏芳兵衛に対し本件農地の一部を売渡した処分も無効というべきである。たとえ参加人柏芳兵衛に対する売渡処分が被控訴人に対する売渡処分の取消後に行われたとしても無効な売渡計画に基く売渡処分たるを免れないのであるから、それが有効であるとすることはできない。(右売渡計画中参加人柏秋美を売渡の相手方とした部分も買受の申込をしない同人を売渡の相手方とした違法を論外としても当然無効というべきである)

されば控訴人に対し参加人柏芳兵衛に対する右売渡処分の無効確認を求めると共に参加人柏秋美を売渡の相手方とした前掲売渡計画の無効確認を求める被控訴人の請求は正当としてこれを認容すべきである。(売渡計画に基いて売渡処分を行う権限を有する行政庁である控訴人は右のような確認訴訟についてもその当事者たる適格をもつものと解するのが相当であると共に、上記認定のような事情からみて被控訴人は右確認を求める利益を有するものというべきである。)

以上の次第であるから、原判決中前記売渡処分を取消すべきものとした分は失当で本件控訴は一部理由があるから、原判決はこれを変更すべく、なお原判決中右売渡処分取消処分の無効確認を求める被控訴人の請求を棄却した部分は相当であつて被控訴人の附帯控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第三百八十六条第九十六条第九十二条第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 檀崎喜作)

原審判決の主文、事実および理由

一、主  文

被告宮城県知事が、宮城県本吉郡唐桑村大字小原木字館百七十七番畑一反六畝十六歩(現在同百七十七番の一畑一反六歩及び同百七十七番の二畑六畝十歩)及び同百七十八番畑二十歩について、昭和二十六年一月二十九日なした原告に村する売渡処分の取消を取消す。

被告宮城県知事が右農地について唐桑村農地委員会が昭和二十五年十月七日定めた売渡計画に基いて昭和二十六年三月二日右農地中前項の百七十七番の一畑一反六歩につき売渡の相手方を参加人柏芳兵衛として為された売渡処分並に右売渡計画に基いて前項の百七十七番の二畑六畝十歩及び同百七十八番畑二十歩につき売渡の相手方を参加人柏秋美としてなされた売渡処分は何れも無効であることを確認する。

原告其の余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一項の売渡処分の取消及び同第二項の各売渡処分は何れも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求原因として、主文第一項掲記の畑(以下単に本件農地と略称する)は、元訴外洪竜寺の所有であつたが、被告は昭和二十三年一月七日訴外唐桑村農地委員会の定めた買収計画に基いて之を買収し次いで同年五月十九日右農地委員会の原告を賃借人と認めて定めた売渡計画に基き同年六月一日附売渡通知書を原告に交付した。

しかるに、唐桑村農地委員会は昭和二十五年十月七日本件農地の内百七十七番の一部(同番の一畑一反六歩)の売渡人を参加人柏芳兵衛同番の一部(同番の二畑六畝十歩)及び百七十八番の売渡人を参加人柏秋美として売渡計画を定め、次で被告は昭和二十六年一月二十九日原告に対し同月十日附前記原告に対する売渡処分を取消す旨の書面を交付した後同年三月二日柏芳兵衛に対し売渡通知書を交付した。しかしながら

一、前記売渡処分の取消は「原告は本件農地を昭和四年八月以降その買収の時期に引続き前記洪竜寺から賃借しておつたのであるから右農地の売渡を受けたことについて何等の違法はない」従つて、何等理由なくなされたものである。

二、参加人等に対する本件農地の売渡処分は

(イ) 右売渡処分の取消が無効であるから二重になされた売渡処分である。

(ロ) 仮りに右取消が無効でなかつたとしても後の右売渡処分に先立つ売渡計画は右取消前に定められたものである。

(ハ) 参加人柏秋美に対しては未だ売渡通知書の交付がない。

従つて、右売渡処分の取消及び之に次いでなされた参加人等に対する本件農地の売渡処分はいづれも無効である。よつてその無効の確認を求めるため本訴に及ぶ。と述べた(立証省略)。

被告両名訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告の主張事実中、冒頭から昭和二十六年三月二日被告が訴外柏芳兵衛に対し原告主張の売渡通知書を交付した迄の事実は売渡処分取消の通知は昭和二十五年十月七日の売渡計画が定められる直前に口頭でなしたのであるからこの点を除きその他の点及び被告が訴外柏秋美に対し未だ売渡通知書の交付を為さないことは何れも之を認める。而しながら本件農地はその当初は原告において賃借したが昭和十六年以降は訴外柏芳兵衛が賃借人となつたものである。が原告に対する本件農地売渡処分を取消したのは当初原告を買収計画を定めるときにおける賃借人と認定して売渡処分をなしたけれども、その後になり、右は参加人等であつて先の売渡処分は重大な錯誤に因るものであることが判明したからである。と述べた(立証省略)。

三、理  由

原告主張の事実売渡処分取消の通知の日の点を除き冒頭から被告が訴外柏芳兵衛に対し売渡通知書を交付した迄の事実は当事者間に争がなく成立に争がない甲第三(同号証の日附が昭和二十五年一月二十九日であるのは昭和二十六年一月二十九日の誤りであることは証人男虎良男の証言によつて明かである)及び第四号証、証人柴森英行、男虎良男の各証言及び原告本人尋問の結果によれば被告は昭和二十六年一月二十九日書面を以て右売渡処分の取消を為したことを認めることが出来る。被告は之に先立ち昭和二十五年十月七日の売渡計画を定める前に口頭を以て右取消の通知を為したと主張するけれども之を認めるに足る証拠はない。

而して甲第四号証及び証人男虎良雄の証言によれば右取消の理由は「買収計画を定めるときの右農地の賃借人の認定を誤つた」というのであることを認めることができる。しかしながら本件農地はその初め昭和四年八月頃原告が当時その所有者だつた洪竜寺から賃借したことは当事者間に争がなく、被告は昭和十六年以降右農地の賃借人は訴外柏芳兵衛であると主張し、証人小野弘一の証言によれば「昭和二十一年十月頃洪竜寺の住職が小作人千葉ヨシエ、千葉ミヨ及び柏ちやの耕作中の農地を訴外千葉初右衛門及び千葉惣吉に依頼して刈払いその跡に麦を蒔くという紛争があつたとき唐桑村小原木の巡査駐在所において調停を勧告し、その結果従来右住職の代理人として出頭したその養子親雄との間に原告に賃借中だつた本件農地は爾後柏ちやに賃貸することと為し、その他の小作人にも従来通り小作せしめることとなつた。」という陳述があるけれども右陳述中右調停によつて本件農地は訴外柏ちやに賃貸することとなつたという部分は信用出来ない。

尤も、証人小野弘一の証言によれば、乙第一号証の一、二、第二号証の一、二は昭和二十一年十月二十三日の右証人のいう調停の際に作成された裁定書及びその承諾書の謄本並に原本であつて、その記載によれば洪竜寺住職永井寛隆は爾後本件農地を訴外柏ちやに賃貸するとなつておるけれども、当時右寺と原告との間の右農地に対する賃貸借が終了していたことは之を認めるに足る証拠がないのであるから、賃借人たる原告が交替して柏ちやが賃借人となるためには、それが先づ原告との間の賃貸借を終了せしめ新たに賃貸する方法による場合たると賃借権の譲渡という方法による場合たると又又更改による賃借人の交替という方法による場合たると、その他如何なる方法による場合たるとを問わず、賃借人たる原告を除外して為した契約を以てしてはその目的を達成することはできない筈であるにも拘らず右書面には原告又はその代理人の署名捺印がないこと及び証人永井寛隆の証言(一、二回)によれば洪竜寺住職永井寛隆は本件農地を訴外柏芳兵衛に賃貸したことを極力否認し、右調停の際私の養子親雄が出頭し「巡査と訴外小野弘一から小作地の賃貸借契約の解除は六ケ月前に予告しなければならない。元通りに耕作させてはどうかといわれ元通りに貸すことにして来たとのことでした。当時原告等一家は和合して同居していたので無理に原告から小作地を取上げてその嫁ちやに貸さなければならない理由はありませんでした」という陳述があるのであるから、かような事情を考慮に入れて判断をなすと右書面は単に爾後も引続き従来通り賃貸して耕作せしめる趣旨を偶々その際その場に原告の代理人として訴外柏ちやが出頭していたので同人に署名捺印せしめることとなり、結果において不完全な表現を残すことになつたに過ぎないと認めるべきで、右証書は被告の前記主張を認めるべき証拠として採用することは出来ない。又成立に争がない甲第十六号証は昭和二十二年月日不明の原告名義の本件農地の買受申込書であつて後に「柏つや」名義に訂正されたものであるけれども、証人永井寛隆、小野弘一の各証言によれば右書面は初め原告名義の儘唐桑村農地委員会に提出されたのであるが訴外小野弘一が無断で右農地委員会に賃借人は柏ちやであるという申出をしたため同農地委員会において訂正し、その後原告名義の買受申込書が提出されたので返還されたものであることを認めることができるから右書証も又前記被告の主張を認めるべき証拠と為すに足らない。他には右被告の主張を認めるに足る証拠はない。

従つて、右買収計画を定めた当時の賃借人は依然原告であつたと認めるべきであるから、先に原告に対して為された本件農地の売渡処分は何等賃借人を誤認したという違法はなく、賃借人を誤認したことを理由として為された右売渡処分の取消はその理由を欠き違法であるといわなければならない。而して、右の程度の違法は右取消処分の無効の原因となるものでないけれどもその取消原因となることは明かである。原告は本訴において右取消の無効の確認の請求を為すのであるが、無効確認の請求も当該行政行為の違法を主張してその効力の排除を求めるものでその取消の請求とその目的を一にするものであるからその無効確認の請求は同時にその取消の請求をも包含すると解すべきである。よつて、原告の右取消の無効確認の請求はその取消を求める限度においてその理由がある(右取消処分の取消を求める訴については自作農創設特別措置法第四十七条の二の適用はなく、行政事件訴訟特例法第五条の一般規定に従うべきであると解する)ということが出来るから之を認容すべきで、その余は理由がないから之を棄却すべきである。

而して唐桑村農地委員会は昭和二十五年十月七日本件農地の内前記百七十七番の一部(同番の一畑一反六歩)の売渡人を参加人柏芳兵衛、同番の一部(同番の二畑六畝十歩)及び前記百七十八番畑二十歩の売渡人を参加人柏秋美として売渡計画を定め、被告は昭和二十六年三月二日参加人柏芳兵衛に対し売渡通知書を交付したけれども参加人柏秋美に対しては未だ売渡通知書の交付をしないことは何れも当事者間に争がない。

従つて参加人柏秋美に対する売渡処分は未だ成立せずこの意味において、同参加人に対する売渡処分は無効であるということができるから、原告のその無効確認を求める本訴請求は理由がある。

次に参加人柏芳兵衛に対する売渡処分の効力について判断を為すと、一般に行政処分が違法を理由として取消された場合には、右行政処分は初めから成立すべからざるものであつたということができるから右取消の効力は右処分の時に遡り、初めから当該行政処分がなかつたと同一の状態に復帰すべきである。尤もこれが為に不当に第三者の権利が害されてはならないことはこれを認めなければならない。本件について、これをみると、原告に対する前記売渡処分の取消と参加人柏芳兵衛に対する前記売渡処分とは別個の行政行為であつて、右取消処分について、参加人柏芳兵衛は第三者であるかのように思われるけれども、証人男虎良雄、梶原亀蔵及び加藤栄五郎の各証言によれば右取消処分は、原告に対する右売渡処分後参加人柏芳兵衛の異議に基くことが明かであるし、本件農地について何人がその売渡を受けて自作農となるかに関し、原告と右参加人とは択一的の関係にある地位にあつたことが前認定の事実からして之を認めることができるから、右取消処分に関しては同参加人は密接な利害関係を有し、当事者たるの地位にあつたというべきであるから、原告に対する前記売渡処分の取消処分の取消が容認される以上参加人柏芳兵衛はその効力から除外せられるべきではない。

而して自作農創設特別措置法による農地の売渡処分の効力は同法第二十一条により、国に存する所有権が売渡の相手方に移転し、同人が当該農地の所有権を取得することにあるから、右売渡処分の時に国が当該農地の所有権者でなかつたとすれば右処分は右農地の所有権移転の効力を生ずることができず無効であるといわなければならない。本件において、原告に対する本件農地の売渡処分の取消処分の取消の効力は右取消処分の時に遡つて生ずるから、右処分の後に為された参加人柏芳兵衛に対する右農地の内一部の売渡処分当時右農地の所有権は右取消前の原告に対する売渡処分によつて原告に帰属していたと認めるべきで、参加人柏芳兵衛に対する売渡処分は右農地の所有権移転の効力を生ずることができず、内容の実現不能により無効となつたと解するより外はない。

従つて原告の右売渡処分の無効の確認を求める本訴請求も亦理由があるから之を認容すべきである。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十二条を適用して主文の通り判決する。

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